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祖父は明治生まれの長洲気質で大変気難しく厳しい人で

祖父は明治生まれの長洲気質で大変気難しく厳しい人で、覚えているのはお正月には庭で先祖代々の日本刀の居合い切りをしている姿で、小さい私は背筋を伸ばして正座をし、その姿を見ておりました。(笑)

そんな祖父は、祖母や父母の前ではいつもいつも難しい顔をしながら居間の決まった場所で碁の本を読んだり刀の手入れをしていたりでしたのですが実は孫の私たちにはとてもとてもやさしかったのです。しつけの厳しい祖母の目を盗んでは内緒でお小遣いをくれたり、一緒に散歩に行くと、祖母から禁止されてる買い食いでこっそりたこ焼きを食べさせてくれたりと・・・(笑)、私はおじいちゃんが大好きでした。

その祖父は春先になるといつも毎日毎日、庭の片隅で目を細めていました。そこには小さな低木が数本埋まっており、白地に赤紫の小さな花がいっぱいいっぱいつぼみをつけており、祖父はニコニコしながら、花の香りを楽しんでいました。私が一番最初に覚えた花の名前がその「沈丁花」でした。私も毎日毎日祖父とそこに行っては日に日に香りの強くなる沈丁花の花を楽しみにしていました。

やがて祖父がなくなり、祖母もなくなり、父と母は近くにできるニュータウンに家を新築することになりました。そしてそのふるい家ともお別れすることになりました。私はまだ小学校3年生であまりよくわからなかったのですが、ようやく友達のようなキレイな新しいお家に住める!と喜んでいました。

引越しということが今の庭ともお別れになるとわかったのは引越しの当日でした。

庭には毎年夏になると大きな大きな実をつけてくれるザボンの木や、学校から帰って一分でも早く遊びに行きたいときにおやつがわりにもいでいったイチジクの木、祖父と棒で必死になってとっていた柿の木やいっぱいいっぱいあるそれらの大きな木・・・。

新しい家にはその半分にも満たないような小さな庭しかありません・・・父に「ザボンの木どうするの?」と聞くと「もっていかれへんからなぁ・・・」とさびしそうに答えが返ってきました。子供の私はそのときに初めて「寂しい」と思いました。

あれからもう25年ほどたちました。新しい家も、すっかり古くなり、昔の家に住んだよりもずっと長い間暮らしたことになります。

狭い狭い家ですがこの家の片隅に小さな白いつぼみを膨らませてる沈丁花の老木があります。実は父もどうやらこの沈丁花だけはどうしても祖父の思い出として気になっていたらしく引っ越した後、一人で元の家に行き掘り出してきたのです。家の裏手にそっと移植されてたので、私はしばらく気付かなく、数年後、新しい庭に慣れた沈丁花が懐かしいその匂いを漂わせてくれるまで私はあの沈丁花が家に無事に居てたことを知りませんでした。

それから、毎年毎年、沈丁花の香りが漂うとあのときの祖父の顔と、会社帰りにこっそりこの木と格闘してる父の姿が目に浮かび幸せな気分になります。そんな沈丁花の香りも実は3年前、私が結婚して家を出てからはそうそう楽しむこともできません。

寂しく思っていたところ、昔、中学生のときにどこかで「沈丁花の香り」の香水が発売されたことを思い出し、もう一度あの香水がないか探し回りました。扇形のその瓶をはっきり覚えており、思いつく化粧品会社に問い合わせたりもしましたがとうに廃盤になっているだろうその香水については結局わかりませんでした。

(中略)

届いた武蔵野ワークスさんの沈丁花をどきどきしながらそっと香ってみると・・・

それは、本当に懐かしいあの匂いでした!届いてから実家に帰るとき、そっとその香りをつけていきますと、父が「あれ?今どっかで沈丁花の匂いがせんかったか?」と驚いていましたよ(笑)。いつまでも、この香りを守っていっていただけたら・・・と思います。


...by  ばりこ

  ※少し長かったので、カットさせていただいた部分があります。ばりこさん、申し訳ありません。

読んでいるうちにひきこまれちゃって、ご本人になったかのような気持ちで読んでしまいました。突然「引越しということが今の庭ともお別れになるとわかったのは引越しの当日でした」という部分にきたときには切なかったです(ちょっと泣けました)。子供って先のことが予測できないので、突然ショックを受けるですよね。

厳しいお祖父ちゃんから3代、絵巻のような光景が伝わってきました。有り難うございました。


20才まで住んでいた家の庭に、この季節には沈丁花が
祖父は明治生まれの長洲気質で大変気難しく厳しい人で
母は沈丁花の香りが大好きでした
昔は沈丁花を植えている家が本当に多く、花の季節になると
学校から帰ってきてふわっとあの香りがするのが
沈丁花の香りで毎年春を感じています
私の実家の庭には沈丁花の木が10本以上植えられています
あれは十数年まえのことです
小学生の頃、沈丁花があまりにも良い香りなので
中学のころ、当時一番仲の良かった友達が
今から20年以上も前のこと。親元はなれひとり、大学生活を
小学生の頃住んでいた家の玄関脇に沈丁花があり、早春の
夕方、仕事帰りの大好きな人を毎日近くの坂道まで
小さい頃から沈丁花の香りが大好きで、毎年3月頃に
わたしは某有名テーマパークにて仕事をしています