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(124) 桜と聞いて思い出すのは
桜と聞いて思い出すのは、外濠公園の桜並木です。私が東京に来た二十年前の四月、私の生まれた福岡では、桜は春休み中に終わってしまい、味わうこともなかったのですが、東京では満開で、とても驚いてしまいました。

ですがそんな感興に浸るヒマもないほど、当時は威勢のいい時代でしたので、桜の木の下には、とんねるず調にイッキイッキと騒ぎ浮かれる大学生や若いサラリーマンでいっぱいでした。私は気後れし、目をそらして慌てて歩き去りました。ですがちらりと後ろを振り返りますと、暗い夜空に桜の木がぼおっと浮かび上がっています。幽玄ってこういうことなのかと、私は桜の木をじっと見つめていました。

甘やかな風が風と、桜の花びらが、どら声でがなり立てている彼らの上に降り落ちる。私には桜の木が泣いているように見えました。その時以来、私には、桜が、都会にいることのなじめなさを象徴するものに見えてしまうようになったのです。

それから四年後、私が社会人になりたての時でした。人もうらやむ元アナウンサーのおじいさんが、満開の外濠公園の桜に、
「ぼくはどうしても桜が大嫌いなんだよなぁ。親の反対で行きたい大学にも、働きたい仕事にも就けなくて。桜が咲く頃といえば、入学式や入社式だろう。みんな喜んでいるのに自分だけ、あーあってがっくりしていたのを、思い出してしまうんだ」とつぶやいたのです。

私はそのことを聞いて、自分の思いとは少し違うけれど、桜に浮かれる人ばかりじゃないんだと安心しました。そして、人それぞれが持つさみしさや辛さを実感したのも、忘れられません。


私の香り・香水のつけ方:


ディフューザーに垂らす。

・・・とりっぺ


(2008-12-20)
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