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(145) 実家の庭にはいろいろな花が
実家の庭にはいろいろな花がありました。桜、梅、椿、つつじ、ぼたん、山茶花に夏蜜柑。どの花も美しく香り良く、季節の移り変わりを庭の木々や花を見ることで育ちました。中でも私がとりわけ好きだったのが大きな沈丁花の木でした。

引っ込み思案だった私は近所に友だちもなく、いつも庭で一人おままごとで遊ぶのが常で、寒い冬の終わりを告げる沈丁花の香る日を心待ちにしていたのを覚えています。小学校にあがり友だちが出来て庭で一人遊ぶことがなくなってからも、沈丁花がどこからともなく香る季節になると心が高揚し「春が来たぁ」と嬉しくなっていました。

私が十歳になった三月のある日、父が亡くなりました。突然の出来事でした。通夜と葬式は家で挙げました。開け放った縁側から参列者の方のあげて下さる焼香の煙と共に沈丁花の香りが入り込んできて、春の訪れを嬉しく思っていただけの沈丁花が悲しく切ない花へとなりました。

そんな沈丁花でしたが父が亡くなって十数年が経ってから、貰われてきた子犬によって無残にも根元から折られてしまい、今ではようやく挿し木で何とか残ってくれた小さな木となってしまいました。花もほとんどつけず、実家の庭が沈丁花の香りでいっぱいになることはなくなってしまったのです。
そうして結婚してやってきた町でも集合住宅ばかりで沈丁花の香りを嗅ぐことはありません。小さな日の喜びも悲しみも詰まった花を懐かしく思い、春になると今まで歩いたことのない裏道を探して散歩するようになりました。いまだ探し当てられませんけれど・・・。

いつかまた沈丁花の香る家で暮らすことができるように。私にとって沈丁花は幼い頃の大切な想い出が詰まった花です。

...mio


私の香り・香水のつけ方:


(2008-12-20)
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