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( 香水工場の )

香る生活


ホウショウ精油と香料園さん
鹿児島で刺激をいただいてきました・・(2023/11/29)

鹿児島・開聞岳( 香料園さんに向かう途中、開聞岳を撮影 )


鹿児島へ行ってきました


鹿児島にあるハーブ園兼蒸留所さんを見学させてもらった。

正式名称は「開聞山麓香料園」(かいもんさんろく・こうりょうえん)

この記事では「香料園」さんと表記させていただきます。

大変興味深い蒸留所さんでした。

開聞岳(かいもんだけ)は、九州のほぼ南端に位置する小さな山ですが、なんと言っても完璧な円錐形が特徴で富士山を思わせる山容。

活火山ながら最近の噴火は平安時代だそうで私達が行ったときは穏やかで優雅な姿を海面から現していました。

この麓(ふもと)に香料園さんがある。

今では樹林帯に覆われた開聞岳だが、もとが火山なので周辺の土壌は岩や火山性砂質が豊富だと感じられた。

植物ごとに好みとする土壌は違うが、一般に香料性のハーブは水田みたいな粘土質より、斜面で水はけがよいサラサラした土壌を好むものが多いのでこの地にハーブ園があるのも納得。


なぜ香料園さんを訪問?


私は以前、香水業界とは無念のビジネスマンでこの業界に来てからは香水・香料関連の本を何冊も読んで勉強した。

香水の書籍はなぜか全般的に退屈なものが多い。

しかし、おもしろくて刺激的だった何冊かがとても記憶に残っている。

その一つが曽田政治氏が書いた『香料とともに60年』。

曽田政治『香料とともに60年』

日本の大手香料会社・曽田香料株式会社の創業者さんが書いたもの。

市販されず曽田香料50周年とかのイベントで関係者に配布された書籍らしい。

自分がどうやってこの本の存在を知ったか今では思い出せないが、読みたいという気持ちでネット古書店で探して入手した。

社長自らが綴るリアルな自叙伝的社史といった内容・・新潟の田舎から上京し丁稚奉公からはじまる物語は起業家スピリッツに満ちておりビジネス書としても香水・香料業界の話としても大変おもしろい。

日経新聞のコラム『私の履歴書』、あるいはニッカウイスキー竹鶴政孝氏をモデルにしたNHKドラマ『マッサン』に似た構図に見えた。


香料植物プランテーションの創始者


曽田氏は香料会社の創業者と同時に日本での香料植物プランテーションの創始者と言えるでしょう。

有名な北海道のラベンダーももとは曽田氏が北海道大学とはじめた実験農場がはじまり。

台湾のジャスミン畑や小豆島のゼラニウム畑など開拓されています。

この本で鹿児島にはかつて曽田香料鹿児島農場がありゼラニウムやホウショウが栽培されていたことを知った。

しかし、この本が執筆された時点ですでに農場は閉鎖されていたので私は「この農場はもう存在しない」と理解した。

その思い込みが違っていたことが10年以上経過した今年判明した。


ホウショウとは?


ホウショウとはクスノキの一種でホウショウ精油が採れる。

漢字では「芳樟」と綴る。芳樟の「樟」はクスノキ、「楠」や簡単に「クス」とも呼ばれる。

九州・四国・中国地方など関東より南の地域でよく育ち、神聖な樹木としてお寺や神社にもよく植えられる。

カンファー=樟脳(しょうのう)が採れる樹木としても有名である。

巨大化し偉容を誇る姿と独特の香りを放つことで自然と人々の信仰を誘ったのではないかと思う。

ホウショウはこのクスノキの一種で外見はほぼ同じながらカンファーの代わりにリナロールを多く含む。

ホウショウのふしぎなところは種から育てると8割がクスノキに変異する点である。

蒲生のクス( 鹿児島県にある巨大クスノキ「蒲生のクス」Wikipedia )


香水業界にとってのリナロール


リナロールは花の典型的な香気成分で香水業界では最も重要な成分の一つ。

現在では工業的に生産されるリナロールだが、昭和40年代くらいまでは世界的に花や植物の精油から採取していた。

リナロールはたいていの花に含まれるが、リナロール採取可能な植物はごく限られている・・代表的植物がローズウッドとホウショウである。

ホウショウのリナロールは純度が高く量が採取できる点が産業的に意味がある。

(花の香気成分が樹木に含まれる点はふしぎだが、同じく樹木であるクロモジにもリナロールが多く含まれる)

ホウショウの木( 最近大がかりに収穫されたばかりのホウショウの木、ここまで丸刈りになると木は大丈夫かな?と心配になったが、またどんどん新しい芽が生育するらしい )

ティ―ツリーの木( カユプテの木も栽培されていた。樹皮がバガバガした感じでおもしろいので撮影。カユプテはユーカリやティ―ツリー、ニアウリと同じ仲間でこれらの精油は世界的に人気が高い )

鹿児島農場では最盛期には6トンというホウショウ精油が採取され、おもにフランスなど欧米へと輸出されていたと言う。

当時南米のローズウッドが減産傾向に陥る一方で、鹿児島農場は世界最大のリナロール生産地の地位を確立した。


香料園さんとの出会い


今年、アロマテラピーの専門家で友人の和田さんといっしょにマッサージオイルを作るプロジェクトが持ち上がり、ある日、和田さんの事務所で関係者が集まって商品コンセプトのミーティングを行った。

マッサージオイルに関して消費者の中にどんな需要があるのか、そしてどんな精油を使ったら良いか?というテーマをブレスト風にわいわい言い合った。

その中で和田さんからはリラックス効果としてホウショウ精油を使いたいという話が出た。

開聞岳の香料園さんから「よいホウショウ精油が入手できる」と言うのだ。

この時点で私は不覚にも開聞山麓香料園さんのことは知らなかった。

「あれ?・・」と思った。

10年以上も前に読んだ曽田政治氏の『香料とともに60年』が蘇った。

「もしや農場は残っていたのか?・・」が正直な気持ち。

自宅に戻り香料園さんについて調べた・・大変有名なハーブ園さんで、また実際に稼働している蒸留所さんだった。

今さら和田さんにこんな事情は話せなくて、まるで以前から知っている蒸留所さんみたいな顔してプロジェクトを進めた。


プロジェクト『ボンセントオイル』


マッサージオイルを作るプロジェクトは『ボンセントオイル』として結実し9月にリリースした。

しかし植物オイル全般の世界的な価格高騰とマッサージオイル自体が市場にあふれている現状を考えると継続的なブラッシュアップが必要と認識している。

ボンセントオイルをリリースした直後、やはり実際に香料園さんに行き自分の目で日本有数の蒸留所さんを拝見したいと考え、アポを取らせていただいた。そして11月に馳せ参じた。


香料園の創始者


直接お話を伺いいろいろなことが明確になった。

香料園の創始者は故宮崎巌氏。

曽田香料の曽田政治氏の依頼で農園開拓と運営を任された氏は、曽田香料が農園を閉鎖する際に個人的に引き取り開聞山麓香料園としてスタートされた。

曽田政治氏と宮崎家の間には香料植物を通して深い信頼関係があったという印象を受けた。

開聞山麓香料園( 宮崎巌氏・・農作業中のワンショットだろうか? 白いシャツに地下足袋姿・・まるで映画のワンシーン・・胸ポケットの手帳や帽子にも植物学者としての雰囲気が漂う・・開聞山麓香料園のWebサイトにて公開されている写真 )


ホウショウ精油、最盛期の風景


曽田香料鹿児島農場は世界最大のリナロール生産者となり地域経済の一部を担うほどの産業へと成長した。

ホウショウ畑は開聞岳だけでなく周辺の集落や地域へと拡大していった。

鹿児島県農林部も応援に乗り出すどほど。

今回ミーティングでお会いした香料園園長の宮崎泰氏によれば、ホウショウを栽培してくれる農家は多かったという。

当時周辺ではオレンジの一種 "ポンカン" の栽培が盛んでしたが、生育が早い上に巨大化するホウショウの木はポンカンの防風林として役立つ。

九州は台風の通り道 "台風銀座" なので防風林が必要なわけですが、その防風林の葉っぱを買い取ってくれる蒸留所の存在はありがたかったに違いない。

鹿児島農場の最盛期には複数の釜で日に複数回の蒸留が繰り返されており、精油の豊かな香りは蒸留所を超えて集落や地域一帯を覆うほどだったと言う。

また蒸留後に余った蒸留水の温度は60度くらい、ちょっと冷めればお風呂にちょうどよく従業員や家族のお風呂の湯として利用されたとのこと。


香水風呂の話


精油採取時に発生する蒸留水は副産物だが、ある程度精油成分が含有されているため香りが良い、美容に良いし、健康にも良い。

私たちはこういう蒸留水を「フローラルウォーター」と呼ぶが、フローラルウォーターの使い途は化粧水の原料にしたり、料理用の水にしたり、中には直接飲む人もいる。

フローラルウォーター風呂は聞いたこともないほど贅沢なお風呂だが、そんな風呂上がりは、もちろん「水もしたたるよい香水男・香水女」のできあがりである。

もし私がそんなお風呂に毎日入れるとしたら、どれだけ長生きできるかとまじめに感謝するだろう。

クレオパトラの有名なバラ風呂でさえ、せいぜいバラの花びらを湯船に浮かべたレベル、その程度では精油成分は体に取り込めない。

隣町の「指宿」(いぶすき)は、昭和40~50年代に新婚旅行ブームで沸いた温泉街(関東における熱海や伊豆半島に似ている)だが、フローラルウォーターは指宿の一部のホテルにも提供されていたようです。


歴史と遺産


このようにホウショウ精油は地域経済の一部を担うほどの産業へと成長したが、リナロールが工業的に合成されるようになると需要も減少へと転じ、ついに曽田香料鹿児島農場は閉鎖されることになる。

関係者や地域の人々の落胆がどれほどのものか察せられるが、それは体験者でない自分にはとうていわからないこと。

しかし、宮崎巌氏が香料園をスタートさせたことで日本の香料産業の遺産が一部でも残されたことは後世の私達からすれば幸運だったと農園内を案内されながら感謝の気持ちを抱いた。

当社はまだ30年未満の弱小企業。

一方、香料園さんは80年以上の歴史。

単に長く生き残っただけでなく一時は世界最大のリナロール生産を担い地域経済を回した歴史と重みがある。

ゆらゆらと園内を歩き回りながら、私の脳裏には「歴史と遺産」が感じられ、今風に言えばリスペクトの気持ちでいっぱいだった。


蒸留釜( 500Kg蒸留釜、戦前の東京で製造されたもの。精油用蒸留釜としては巨大で国内ではこのクラスの蒸留釜は珍しい。曽田政治氏はもっと大きな釜を作りたかったが列車に乗せられないためこのクラスで断念したらしい・・この釜が壊れたら修理できる人はもやいないが、まだまだ壊れる気配はない。昔のモノ作りの凄さも伝わる )


ホウショウ精油( 香りを確認中の当社代表・・ホウショウ精油は蒸留採取された後、数ヶ月間、冷暗所で熟成を待つ。蒸留したての精油にはややツンと来る蒸留臭なるものがあるとのことだった )


オードパルファム『芳樟』


ホウショウの香水は他社さんがすでに出しておられるでしょうが、「武蔵野ワークス版」があってもいいかもしれない。

オードパルファム『芳樟』(仮名)を制作できないか検討したい。

リリースできるか、できるとしたら何年後?・・まったく未定でゆるいプランですが、固まったらまたこのブログで報告したい。





お客様コメント:

2024/01/05 (Fri) 08:54:41

九州のクスノキ

・コメント:
九州の木といえば何と言ってもクスノキですね。福岡県みやま市で生産されている樟脳が有名です。

常緑樹照葉樹のあばれ木であるのに、葉柄(葉の軸)が長く、葉の縁がゆるく波立っているためか、軽やかで優しい印象です。

初夏に花姿が見えないのに、どこからか落ちてくる素晴らしく爽やかな芳香に驚くことがありますが、たいていクスノキです。

小さな、キレイなキミドリ色の花をわんさかつけています。鼻をつけて嗅ぐと匂いません。

寺社が多い地区では、空気の流れしだいでは街中がクスノキの花の芳香に満たされることもあります。意外と知られていない、いい匂いの花が咲く植物です。じみーに好きな木がとりあげられていたので、うれしくて。

・・おかーぽん

(国分) みやま市にはクスノキから樟脳を生産する工場があったと思いますが、後継者問題など厳しい状況だとお聞きしました。伝統が長く続いてくれるといいですね




(2023-11-28)
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