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( 香水工場の )

香る生活


シングルフローラルの香り
きょうはシングルフローラルの話題。


シングルフローラルとは?


特定の花の香りの意味です。ある特定の花をテーマにしているため、その花の香りに似た香水やフレグランスをさします。

フローラルな香りの香水は非常に多くありますが、特定の花の香り(シングルフローラル)でなく、複数の花の混合(ブーケタイプ)か、架空の花の香り(イメージタイプ)が圧倒的に多くリリースされてきました。

香水はイメージ商品ですので、特定の花の香りに近いシングルフローラルよりは他ブランドが出していない、誰も知らないファンタスティックな香りに特化していく方がよいとするブランドさんが多いためと思われます。


香水の自然回帰トレンド


それでも近年は、シングルフローラルを前向きに取り上げる香水ブランドが、実はヨーロッパでも増加傾向にあります。

近年の天変地異が人々の心に自然回帰の願望を高めていることが背景では?

最近のEUでは、化粧品も食品もキーワードは「ナチュラル」「オーガニック」といった様相です。

香水もイメージ香水から、特定の花、たとえば、ユリやガーデニア、ジャスミン、ハニーサック・・・の香りの香水に人気が出始めています。


シングルフローラルの香りの調香方法


香水メーカーは、どのようにシングルフローラルの香りを創作するのでしょうか?

花から香りのエッセンスを採取する


香りのエッセンスとは、一般に精油(エッセンシャルオイル)ですが、花から精油を採取できる品種はかなり限られていますし、採取された精油は花そのものの香りとは通常違っています。

花の香りを成分分析機で分析


これは多くの香料会社さんで行われています。花をガラス容器で被いその中の香気成分を捕捉(ヘッドスペース法)してガスマスで成分を分析します。

しかし、すべての成分が判明するわけではありません。微量成分や未知成分を取りこぼします。ある程度判明した成分を掻き集めて一つの香りを創ります。

問題はこのような緻密で正確な作業にも関わらず、香りは花とはかなり違ったことになることが多く、研究者が「やっぱ自然ってスゴイわ」と別の感動を味わう瞬間にもなります。

しかし、大きなヒントになります。

ある香料会社の研究員から聞いた話です。その方はローマンカモミールの成分分析に多くの時間を費やしたそうです。

結果的に200成分くらいを解明し、それらを掻き集めて合成カモミールを試作しました。

それを生産ラインに乗せようとすると原価が天然カモミールの2倍になったそうです。これでは合成カモミールを開発する意味がありません。

しかも、香りは「天然の方がバランスがよいと感じた」とおっしゃっておられました。人類の英知を持ってしても天然を超えられない一例かもしれません。


公開されている成分情報の活用


シングルフローラルの香りを開発する際、このように成分分析機は大きな力を発揮しますが、それなりに大がかりです。

運がいいことに有名な花に関しては偉大な先達や先輩の方々によって、すでに分析され一部公開されていますので、それを利用する方法があります。

また、シングルフローラルの処方を集めた本も存在します。これも世界の先達パフューマー達が生み出した香りの処方で公開されたものです。

しかし、それらは部分的開示だったり戦略的開示だったり、完成度が低いままの開示であることが普通で、そのまま使用できないと考えてください。

しかし、ヒントになります。


最後はフィールドワーク


時間的・地理的な制約が大きく、なかなかはかどらない創作活動になりますが、文字通りお花畑に通い、実際の花を摘むことなく、生きている花の香りを観察する方法。

花のそばで花の香りと較べながらその場で調香するという方式です。

重い香料セットをしょって花畑に繰り出すことは、シングルフローラルの香りを制作するパフューマーには必須の作業です。最終的にはパフューマーが自分の鼻を頼りにこれを繰り返すしかありません。



これらを総合して、シングルフローラルの香りは創られていきますが、最終的には、現状、パフューマーの鼻とセンスに依存する部分が一番大きいと思います。




(2007-07-10)
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