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( 香水工場の )

香る生活


マスマーケットに向かうラグジュアリー2
「マスマーケットに向かうラグジュアリー」の2回目です。拡大するラグジュアリーは、次第にピラミッド化の様相を見せていますが「真のラグジュアリー」対「手の届くラグジュアリー」、また「ヨーロッパのラグジュアリー」対「それ以外のラグジュアリー」というバトルも目が離せません。では、さっそく・・・


-------------(原文訳)--------------
世界的に好調な経済状況を反映してラグジュアリーのセールスは今や小売りベースで25兆円市場、過去10年間で約2倍へと拡大しました。そのため今までラグジュアリーと無縁だった企業もラグジュアリー・ビジネスへと続々と参入。彼らは自分たちを「アクセシブル・ラグジュアリー=手に届くラグジュアリー」の提供者であり、上質なバリューを提供する企業であると主張しています。

コーチ社はその典型です。それまで退屈な皮革製造会社だったコーチは1990年代中頃「ルイ・ヴィットンより安いルイ・ヴィットン」と自分たちをポジショニングしなおし、その結果、コーチの4万円程度のバッグは今では飛ぶように売れています。マス・マーケッターも続々と「手に届くラグジュアリー」に参入してきました。たとえばマス・マーケティングで成長してきたH&M社やターゲット社は世界のトップデザイナーを起用するようになりました。トップデザイナーたちとのパートナーシップを通して「人々は、ハイセンスなファッションが必ずしもハイプライスであることとは関係ないことを知るようになりました」とターゲットは語ります。


しかし、このように誰でもラグジュアリー商品を販売するとなると、そもそもラグジュアリーって何?という回帰的な疑問に戻ることになります。リッツ・カールトンの社長は「最近では、ラグジュアリーというコトバは英語で最も安易に使われるコトバです。一番安い自動車でさえラグジュアリーというコトバが使用されない広告はありませんからね」

2500万円のルイ・ヴィトン タンブール トゥールビヨン ウオッチは「ラグジュアリー」に違いないでしょうが、さて3万円のヴィトン サングラスは「ラグジュアリー」でしょうか?ステラ・マッカートニーがH&Mのためにデザインしたコレクションとグッチグループ内の自身のブランド「ステラ・マッカートニー」では価値は違う?

ウォールストリートの見解はこうです:ラグジュアリーといってもそれは今や巨大なピラミッド構造になっており、頂点のカルティエ、ヴィトンから下の方のコーチまでラグジュアリーの許容範囲は広大。この分野は今後も年率10%程度の成長が見込めるでしょう。


しかし、いろいろなプレイヤーを「ラグジュアリーピラミッド」として一緒くたに扱う考え方に怒り心頭な意見もあります。ルイ・ヴィトンのCEOは、他のラグジュアリープレイヤーと一緒にされることにバカバカしさを感じています。

「私たちは、他社とは歴然たる違いがあるのです」。

「消費者はみなさんが考えるよりもっと知的ですよ。ラグジュアリーの意味を理解し、ラグジュアリーであるためのルールに敬意を払うブランドは、世界にほんの一握りしかありません」

当然、彼の心中にあるラグジュアリー・ブランドとは、伝統的栄光を受け継ぐヨーロッパのブランドを指します。そして、その条件はこうでなければいけません:

・高度な領域に達している職人精神に貫かれていること
・革新的なデザイン
・セレクティブなディストリビューション・チャネル
・純粋な直営店の存在
・ライセンス生産における厳しいコントロール
・ディスカウントに対する厳しいコントロール
・そしてブランドを傷つける可能性があるいかなるものも排除する態度
-------------(原文訳ここまで)--------------

「ACCESSIBLE LUXURY」(アクセシブル・ラグジュアリー=手に届くラグジュアリー)というコトバは印象的です。現在のラグジュアリーの状況を言い当てる妥当な表現ですが、筆者が言うように誰でも手が届くなら、そもそもラグジュアリーではないんじゃないかという疑問を湧いてくるのも自然です。


前の段落ではアクセシブル・ラグジュアリーを提供するプレイヤーが出てきた事情が書かれていますが、ここでは同一のラグジュアリーブランドが「真のラグジュアリー」と「アクセシブル・ラグジュアリー」を提供するという混乱ぶりに言及しています。しかし、世界の投資家からみればラグジュアリーもピラミッド化しており、いろんなラグジュアリーがあってもいい。プレミア価格でビジネスできるこの分野は毎年確実に儲けられるのだから、とにかく仲良くして儲けてね、と訳すのは意訳のし過ぎでしょうか。


ブランドたる条件は、ブランドの教科書に書かれていそうな内容ですが、「職人精神」と「直営店の存在」は感銘深い。ヨーロッパブランドはもともと店舗兼工房(メゾン)でクリエイターや職人を中心に家族など小規模に経営する形態が多かったものです。

1階がお店、2階が職人達の作業場。作業場には権限の強い頑固一徹の親方職人がいてお店を切り盛りするというメゾンはヨーロッパからギリシア、トルコまで広く存在しましたが、考えてみれば日本の職人産業もなんら変わりがありません。ルイ・ヴィトンのデザイナーさんやクリエイターさん達が京都の職人さんたちと交流会を持ったりすることも理解できます。そこには共通の職人魂が感じられるからに違いありません。

現代の産業形態は、本国でコンセプト・デザインを行い、中国工場で生産し、世界中で売りまくるという構図になってきました。開発者・生産者・販売者が完全に分離していますが、ブランドたるブランドは基本的にメーカーでありながら「直営店」としてブティックやショップを構えること条件としています。メゾンがもともとそういう形態だったという歴史があります。現代の「直営店」はお客さまとの直接のコミュニケーションを重視する狙いがあるのではないでしょうか。

「ラグジュアリーのルールに敬意を払うブランドは、世界にほんの一握りしかありません。それはヨーロッパの伝統的栄光を受け継ぐヨーロッパのブランドだけ」

というルイ・ヴィトンのCEOの発言は、アメリカ人からすれば、アメリカのブランドでは絶対に満たせないものであり悔しい内容かもしれません。これにはニヤリとさせられました。ここには書かれていませんが、同じヨーロッパでも、パリの「コミテ・コルベール」(コルベール委員会、パリのブランドが所属するネットワーク、60社程度、フランス人によるブランド以外は加入できない)のようにフランスのブランド以外、たとえば、プラダやアルマーニ、グッチなどは差別的に見られているようですが、このへんをを考えるとやや恐くもなります。

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Although stock prices have taken a hit in recent weeks, luxury sales have boomed along with the global economy. The world market has doubled in the past decade to about $220 billion a year in retail value. That has encouraged many companies with less pedigree to try to muscle their way in. They call themselves purveyors of "accessible luxury" and claim to be both classy and good value.

Coach (Charts) is a prime example.Starting in the mid-1990s, CEO Lew Frankfort repositioned the stodgy leather-goods firm as a less expensive Louis Vuitton and watched its $300 bags fly off the shelves. Mass marketers are getting in on the act too. H&M first teamed up with Karl Lagerfeld in 2004 and now works regularly with big-name designers. Target (Charts, Fortune 500) deals with Mossimo Giannulli and Isaac Mizrahi. Through these partnerships, says Target VP Trish Adams, "our guests have learned - and come to expect - that high fashion doesn't have to mean high prices."

This jostling for position raises a fundamental question: What does luxury mean if everybody claims to be doing it? "It has become one of the most overused words in the English language," sniffs Simon Cooper, president of Ritz-Carlton, the hotel chain once synonymous with a gilded existence and now slugging it out with a host of competitors. "You can't find an ad even for the cheapest car that doesn't have the word 'luxury' in it."

The question applies equally to the high and the low end. It's easy to understand that a $220,000 Louis Vuitton Tambour Tourbillon gold watch is a luxury item, but can the same be said of $275 Vuitton sunglasses? Is a Stella McCartney collection designed for H&M any different in status from Stella McCartney's collections for her own brand, which is part of the Gucci Group?

Wall Street's answer: Relax. Luxury has become one giant pyramid, it reckons, with brands like Cartier and Vuitton at the top and Coach near the bottom. From its perspective, anywhere in this pyramid is a great place to be, since luxury firms trade at a premium, and industry analysts predict that the market will keep growing at an annual clip of 8% to 10%.

Yet within the sector itself, there's furious resistance to the notion of lumping everyone together. Louis Vuitton chief executive Yves Carcelle is scornful of the idea that most of the others in the pyramid are even competitors. "The confusion does not exist," he says. "Consumers are much more intelligent than one imagines. There are just a limited number of houses that respect the rules of luxury." By that he means predominantly old-line European firms with time-honored traditions, the highest standards of craftsmanship, innovative design, and a selective distribution policy that usually includes a network of wholly owned stores and strict controls on licensing, discounting, and anything else that could hurt a brand's reputation.
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(2007-09-21)
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