( 香水工場の )
香る生活
ムエット・匂い紙の深い話
(post) 2007/11/23, (updated) 2021/09/11
( 現在、社内でメインに使われているムエット )
きょうは「ムエット」のお話です。香水売り場に備え付けられているあの "紙切れ" のことです。
日本語では「匂い紙」(においがみ)。
日本の調香師さんは「試香紙」(しこうし)や「香料試験紙」と呼んでいます。
だいたい白い厚手の紙で、短冊状に切られたもの。先っちょに香料や香水を付けたり、スプレーしたり、瓶に直接入れて香りを付けます。
香水は、本来自分の肌に直接つけて自分の肌や体臭との相性や試すものですが、何種類も試す場合や、純粋に香料だけを見る場合は、無色無臭の紙切れ・ムエットで試します。
コーヒーのテイスティングでは、口に含んだら飲み込まずに戻すやり方が多いでしょ。
香水も自分の肌に残すと次の香りがわからなくなるため、数種類のスメリングではムエットを利用します。
売り場では、ムエットで何種類か試してお気に入りの香りがあれば、そのまま購入せず、そのお気に入りの一品を実際に肌に付けて時間の経過(1日くらい)とともに香りの変化を見るとよいでしょう。
(トップノートだけでの衝動買いは、あまりお勧めしません)
ムエットはフランス語、「mouillette」。私はフランス語がダメなので、間違っているかもしれませんが、もともと料理用語のようです。
mouilletteの英語訳は、ある辞典によれば「strip of bread」(パン切れ)とでています。
・「Piece of bread or other solid food that is dipped in a sauce.」
(ソースに突っ込んで食べるパン切れか他の固形状切れ端)
・「Small long and thin bread piece that one soaks in the soft-boiled eggs.」
(半熟玉子に浸して食べる長くて薄いパンの切れ端)
なるほど、要は小麦粉を焼いて作るスティック状の平ぺったい固パンらしいです。
かのフランスにはそういう食材があるのでしょう。
朝食に出された半熟玉子をスティックで掘り返しているイメージが浮かびます。
綴りを見ると「ムイレット」「ムワイレット」と発音したくなりますが、私が聞いた範囲では、フランス人は mouillette を「ムイエット」と発音しています。
最後の「ト」は聞き取れるか聞き取れないくらいの音。
→ mouillette の発音
ムエットは英語では smelling-strip といいますが、mouillette も通じるようです。
さて、ムエットに使用される紙にはちょっとした特徴があります。
(1) まずは無臭であること (当然ですよね)。
(2) 香料を付けても化学変化しないこと。香りをつけてヘンな匂いを発生しないこと・変化しないことは重要です。
(3) それに、香料の浸透性がよくて香りの保留性も高いこと。
逆にこの条件を満たせばどんな紙切れでもムエットとして使用可能です。
ムエットは、何かスペシャルな素材の紙だと誤解されている方も少なくないようですが、ボクら商談で海外などに行ったとき、手持ちのムエットがないとノートの端切れを破いてムエット代わりにします。
特に外国人はあまり気にしません。
武蔵野ワークスでは、自社オリジナルのムエットを何度か制作したことがあります。
紙屋さんで様々な紙切れをもらってきて片っ端から香料を付けていきます。
香り立ちがよく、香りの保留性が高いものをテストして、他社では見たこともないような紙質の固い強度のあるもので制作したこともあります。
パフューマーや香りのプロが使用するムエットは、それ専用に開発されたムエットです。
(1) どこの国でもだいたい細くて長い紙切れです。
(2) 時として先っぽが細くなります。
その理由は口が狭い香料瓶が多いためです。
短冊状の紙切れの先をちょっと香料を浸すためには細くて長くて尖っている方がよいわけです。
香水売り場で見かけるムエットはむしろ帯広です。
時として名刺やウチワのような形状のおしゃれムエットもあります。
この理由は売り場でのスメリングはスプレーを吹きかけるため面積がある程度あったほうがいいし、また無地のムエットよりはブランド名や商品名を入れたいからです。
ムエット自体おしゃれということもあり、世の中には「ムエットコレクター」なる人々もおられます。世の中さまざまですね。
そして、反対意見もあると思いますが、私の実験によれば、帯広のムエットの方が一般人には香りがはっきり判別できるのです。
しかもよい香りに感じます。ムエットの面積と判別のしやすさはある程度比例しています。
逆にパフューマーやプロはなるべく細くて面積の小さいムエットを選ぶ人が多いでしょう。
面積が広いムエットで大量の香りを吸い込むと次の香り判別に影響がでますので。
嗅ぎ方も何回もクンクンするのではなく1回、ほんの少し香りを吸い込み、すぐにムエットを鼻から遠ざけます。
なるべく1回勝負で香りを評価したり成分を判別する方が理想的だと思います。
他の五感(感覚器官)と比較すると極端に疲労しやすい嗅覚 (嗅覚疲労 = その匂いを感じなくなる現象) は、少ない回数で白黒をつけることが大切です。
人によってはコーヒー豆などで嗅覚疲労をリセット(気付け)する人もいます。
そういうアドバイスをする人がいますが、多くの人にとってコーヒーは大して効きません。
むしろ、自分の脇の下を嗅ぐリセット(脇の下リセット)の方が、効果があるように思います。
嗅覚疲労リセットは、それよりも、10分くらいどこか歩き回ってくることおすすめします。
最後に、お客様からいただいた質問です。
「ムエットはどこで買えばいいですか?」
大手通販サイトで検索すればでてきますよ。
相場は、だいたい1枚10円といったところでしょうか?
たかが小さな紙切れですが、案外高いでしょ?需要が少ないので生産メーカーも少なく、このような価格になります。
海外から輸入すれば、それなりに安価になるのですが、最低ロット1万枚など、一般消費者にとっては、枚数が現実的でありませんよね。
そうそう、もう一つだけ。
使用済みのムエットを本やノートのしおりとして利用する人がいます。楽しい利用方法ですね。
・オリジナルムエットは案外高い・・・たかが紙切れですが、1万本制作して1本10円程度と知ってしまえば、気持ち的にムエットも「たかが紙切れ」とはバカにできなくなるんですよね・・・
・真ん中あたりにあるのが、武蔵野ワークスオリジナルお客様用ムエット。社内の調香やスメリングでは、上記の理由により、細い標準ムエットが使用されています。
・商談中のスメリング。パフューマーのように日常的に嗅覚を使用すれば慣れると思いますが、これだけの種類の香りを嗅ぐと私の場合体力の消耗が激しく疲れます。スメリングで脳味噌内の普段使われない嗅覚は超アクティブ状態。
【関連記事】
・おもしろ企画、ムエット配布プラン (2021/09/08)
(2007-11-23)
( 現在、社内でメインに使われているムエット )
ムエットとは? 試香紙とは?
きょうは「ムエット」のお話です。香水売り場に備え付けられているあの "紙切れ" のことです。
日本語では「匂い紙」(においがみ)。
日本の調香師さんは「試香紙」(しこうし)や「香料試験紙」と呼んでいます。
だいたい白い厚手の紙で、短冊状に切られたもの。先っちょに香料や香水を付けたり、スプレーしたり、瓶に直接入れて香りを付けます。
自分に付けないための小道具
香水は、本来自分の肌に直接つけて自分の肌や体臭との相性や試すものですが、何種類も試す場合や、純粋に香料だけを見る場合は、無色無臭の紙切れ・ムエットで試します。
コーヒーのテイスティングでは、口に含んだら飲み込まずに戻すやり方が多いでしょ。
香水も自分の肌に残すと次の香りがわからなくなるため、数種類のスメリングではムエットを利用します。
ムエットで試し、そして自分の肌で確認
売り場では、ムエットで何種類か試してお気に入りの香りがあれば、そのまま購入せず、そのお気に入りの一品を実際に肌に付けて時間の経過(1日くらい)とともに香りの変化を見るとよいでしょう。
(トップノートだけでの衝動買いは、あまりお勧めしません)
ムエット?・・フランス語講座
ムエットはフランス語、「mouillette」。私はフランス語がダメなので、間違っているかもしれませんが、もともと料理用語のようです。
mouilletteの英語訳は、ある辞典によれば「strip of bread」(パン切れ)とでています。
・「Piece of bread or other solid food that is dipped in a sauce.」
(ソースに突っ込んで食べるパン切れか他の固形状切れ端)
・「Small long and thin bread piece that one soaks in the soft-boiled eggs.」
(半熟玉子に浸して食べる長くて薄いパンの切れ端)
なるほど、要は小麦粉を焼いて作るスティック状の平ぺったい固パンらしいです。
かのフランスにはそういう食材があるのでしょう。
朝食に出された半熟玉子をスティックで掘り返しているイメージが浮かびます。
ムエットの発音・・ムイエット?
綴りを見ると「ムイレット」「ムワイレット」と発音したくなりますが、私が聞いた範囲では、フランス人は mouillette を「ムイエット」と発音しています。
最後の「ト」は聞き取れるか聞き取れないくらいの音。
→ mouillette の発音
ムエットは英語では smelling-strip といいますが、mouillette も通じるようです。
ムエットに適した紙の種類・特徴
さて、ムエットに使用される紙にはちょっとした特徴があります。
(1) まずは無臭であること (当然ですよね)。
(2) 香料を付けても化学変化しないこと。香りをつけてヘンな匂いを発生しないこと・変化しないことは重要です。
(3) それに、香料の浸透性がよくて香りの保留性も高いこと。
逆にこの条件を満たせばどんな紙切れでもムエットとして使用可能です。
ムエットは、何かスペシャルな素材の紙だと誤解されている方も少なくないようですが、ボクら商談で海外などに行ったとき、手持ちのムエットがないとノートの端切れを破いてムエット代わりにします。
特に外国人はあまり気にしません。
オリジナル・ムエット
武蔵野ワークスでは、自社オリジナルのムエットを何度か制作したことがあります。
紙屋さんで様々な紙切れをもらってきて片っ端から香料を付けていきます。
香り立ちがよく、香りの保留性が高いものをテストして、他社では見たこともないような紙質の固い強度のあるもので制作したこともあります。
プロ用のムエット
パフューマーや香りのプロが使用するムエットは、それ専用に開発されたムエットです。
(1) どこの国でもだいたい細くて長い紙切れです。
(2) 時として先っぽが細くなります。
その理由は口が狭い香料瓶が多いためです。
短冊状の紙切れの先をちょっと香料を浸すためには細くて長くて尖っている方がよいわけです。
帯広なムエットの意味
香水売り場で見かけるムエットはむしろ帯広です。
時として名刺やウチワのような形状のおしゃれムエットもあります。
この理由は売り場でのスメリングはスプレーを吹きかけるため面積がある程度あったほうがいいし、また無地のムエットよりはブランド名や商品名を入れたいからです。
ムエットコレクター
ムエット自体おしゃれということもあり、世の中には「ムエットコレクター」なる人々もおられます。世の中さまざまですね。
そして、反対意見もあると思いますが、私の実験によれば、帯広のムエットの方が一般人には香りがはっきり判別できるのです。
しかもよい香りに感じます。ムエットの面積と判別のしやすさはある程度比例しています。
ムエットの使い方
逆にパフューマーやプロはなるべく細くて面積の小さいムエットを選ぶ人が多いでしょう。
面積が広いムエットで大量の香りを吸い込むと次の香り判別に影響がでますので。
嗅ぎ方も何回もクンクンするのではなく1回、ほんの少し香りを吸い込み、すぐにムエットを鼻から遠ざけます。
なるべく1回勝負で
なるべく1回勝負で香りを評価したり成分を判別する方が理想的だと思います。
他の五感(感覚器官)と比較すると極端に疲労しやすい嗅覚 (嗅覚疲労 = その匂いを感じなくなる現象) は、少ない回数で白黒をつけることが大切です。
嗅覚疲労のコーヒーリセット? 脇の下リセット?
人によってはコーヒー豆などで嗅覚疲労をリセット(気付け)する人もいます。
そういうアドバイスをする人がいますが、多くの人にとってコーヒーは大して効きません。
むしろ、自分の脇の下を嗅ぐリセット(脇の下リセット)の方が、効果があるように思います。
嗅覚疲労リセットは、それよりも、10分くらいどこか歩き回ってくることおすすめします。
ムエットの販売店と価格
最後に、お客様からいただいた質問です。
「ムエットはどこで買えばいいですか?」
大手通販サイトで検索すればでてきますよ。
相場は、だいたい1枚10円といったところでしょうか?
たかが小さな紙切れですが、案外高いでしょ?需要が少ないので生産メーカーも少なく、このような価格になります。
海外から輸入すれば、それなりに安価になるのですが、最低ロット1万枚など、一般消費者にとっては、枚数が現実的でありませんよね。
使用済みムエットのおしゃれな使い方
そうそう、もう一つだけ。
使用済みのムエットを本やノートのしおりとして利用する人がいます。楽しい利用方法ですね。
・オリジナルムエットは案外高い・・・たかが紙切れですが、1万本制作して1本10円程度と知ってしまえば、気持ち的にムエットも「たかが紙切れ」とはバカにできなくなるんですよね・・・
・真ん中あたりにあるのが、武蔵野ワークスオリジナルお客様用ムエット。社内の調香やスメリングでは、上記の理由により、細い標準ムエットが使用されています。
・商談中のスメリング。パフューマーのように日常的に嗅覚を使用すれば慣れると思いますが、これだけの種類の香りを嗅ぐと私の場合体力の消耗が激しく疲れます。スメリングで脳味噌内の普段使われない嗅覚は超アクティブ状態。
【関連記事】
・おもしろ企画、ムエット配布プラン (2021/09/08)
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