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( 香水工場の )

香る生活


香水の原型、ハンガリーウォーター伝説#3
ハンガリーウォーターはお薬?それとも香水?飲んだり・塗ったり・洗ったり、奇跡の水の正体とは?
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ハンガリーウォーターはアルコールに精油を溶かし込んで作ります。現在の私達から見れば、お手軽な手作り化粧品といったところですが、アルコールに精油を溶かすという行為が現代で言えば特許モノにあたります。

アラビアやペルシアなどのイスラム文化圏で生まれたアラビックにて製造されるアルコールがヨーロッパで普及し始めたのは1300年代とされています。当時最新鋭の物質だったアルコールに精油を溶かすことで精油の持つ刺激を抑え、伸びを良くし、日持ちをよくし、使いやすくする効果がありました(精油はそのままお肌に塗ると危険な場合があります)。

なお、「アルコール」という名前自体、いかにもアラビアという感じなんですが、alcohol(アルコール)の「al」はアラビアとい意味ではなくアラビア語の冠詞だそうです。アルコールのアラビア由来説は揺るぎないと思います。ちなみに酸性・アルカリ性の「アルカリ」(alkali)の「al」もそうです。「kali」は「植物の灰」だそうです。石鹸の起源ですね。

現存する最古のレシピーによれば、ハンガリーウォーターは新鮮なローズマリー(そしておそらくタイムもともに)強力なブランデーとともに蒸留して作られました。その後、レシピーにはラベンダー、ミント、セージ、マジョラム、モッコウ、ネロリ、レモンなども加えられるようになったとされています。

"The oldest surviving recipes call for distilling fresh rosemary (and possibly thyme) with strong brandy, while later formulations contain lavender, mint, sage, marjoram, costus, orange blossom and lemon."

ハンガリーウォーターは世界最初の「香水らしきもの」として香水史にその名を留めますが、当時は「香水」ではなく「お薬」として利用されました。もちろん、香りのよいお薬としてでしょう。

ハンガリーウォーターの効能は、神経症、リウマチ、睡眠障害、聴覚障害、耳鳴り、視力低下、血栓、食欲不振、消化不良、肝臓病などまさに万能薬として評価され、特に高齢者の若返りに効く薬として有名になります。そのため一部の伝説ではハンガリーウォーターは「若返りの水」とも言われます。

このような事実から考えるとハンガリーウォーターは、形状こそ香水ですが、実質アロマテラピーの原型と考えた方が理解しやすいかもしれません。

ローズマリーは、天然の抗酸化成分であるポリフェノールの含量が非常に高く抗酸化に有効なハーブです。体内酸化が原因で発症すると考えられる老化や老化性疾病、たとえば神経痛やリウマチ、血管障害などに一定の効果が期待される成分ですので、ローズマリーを配合したハンガリーウォーターが「若返りの水」と呼ばれるのも一理あるかもしれません。

伝説によると当時70才を過ぎていたエリザベートは、「若返りの水」を服用(肌につけた、または飲んだとも言われます)するようになって、とても元気になり若返り、20代のポーランド王子にプロポーズされたそうです。

しかし、これは「若返りの水」のたんなる尾ひれ部分の話か、またはよく作り込まれたマーケティング用伝説でしょう。もしプロポーズの話が事実ならそれは政略的な意味があったと思われます。マーケティング的には大成功のエピソードで、ハンガリーウォーターについて書かれた日本のサイトでは少なからず取り上げられます。セットで語られるエピソードに成長しました。エリザベートさん自身は75才でお亡くなりになりますので「若返りの水」もパーフェクトでないことは事実のようです。

なお、現在ではお薬的な用途でローズマリーを用いるとしたらアルコールに溶かす香水としてでなくアロマテラピーとして用いることが普通かと思います。アロマテラピーではエッセンシャル・オイルを溶かすためにアルコールよりも、むしろキャリアオイルと呼ばれるねっとり安定した(分子量が大きい)植物性のオイル、たとえば、ホホバオイルやスイートアーモンドオイル、オリーブオイルなどで希釈します。

刺激がより少なく精油をお肌に長時間保留する効果が高いためです(中には肌から体内への吸収促進の働きがあると主張する方もおられます)。

ハンガリーウォーターが薬として拡大した理由のもう一つは、当時まだ「香水」という概念がヨーロッパ(もちろん世界中どこにも)に存在しなかったこともあると思います。現在、香水は英語でPerfumeと呼ばれます。当時もすでにPerfumeというコトバは使用されていたでしょう。しかし、現在の「香水」という意味ではなく「香料」という意味でした。

香水という今までヨーロッパ人が体験したことがない新製品が開発されるようになったとき、なぜPerfumeとは違う別のコトバを、その新製品に命名しなかったのか、それはおそらく「香料」から「香水」への移行があまりにも穏やかで自然だったためではないかと思います。

その後ハンガリーウォーターは、香水好きで有名な当時のフランス王シャルル5世に献上されました(1370年)。この逸話は、ハンガリーウォーターがヨーロッパ中に拡散していく様子を象徴する話です。

参考にした文献:
Queen of Hungary Water

下記は、Queen of Hungary Waterの中にある一節で「The Household Cyclopedia」(1880年頃)家事一般の百科事典と思われるものハンガリーウォーターのレシピーに関するの記述です。

(訳)ハンガリーウォーターのオリジナルレシピーは下記の通りである:この貴重なローション(ハンガリーウォーター)のレシピーはElizabeth女王によって書かれました。AQUA VITAE(アクアヴィーテ、water of Life、命の水、つまりアルコール。一般的にはブランデーやウイスキー)とローズマリーを一つの容器に密封後、暖かい場所で50時間寝かしてアランビック(蒸留器)で蒸留。週一回、朝や食事の際1 dr.摂取(dr.は不明。drink? drive? 一口くらい?)、また毎朝顔や障害のある患部をこれで洗います。

(原文)
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Original Receipt for Hungary Water.

The original receipt for preparing this invaluable lotion is written in letters of gold in the hand-writing of Elizabeth, queen of Hungary. Take of aqua vitae, four times distilled, 3 parts, the tops and flowers of rosemary, 2 parts. To be put together in a close-stopped vessel, And allowed to stand in a warm place during 50 hours, then to be distilled in an alembic, and of this, once every week, 1 dr. to be taken in the morning,either in the food or drink, and every morning the face and the diseased limb to be washed with it.
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この記事は#3
香水の原型、ハンガリーウォーター伝説#3
香水の原型、ハンガリーウォーター伝説#2
香水の原型、ハンガリーウォーター伝説#1
(2009-03-25)
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